学長あいさつ

涌井史郎学長は、「景観十年、風景百年、風土千年」と唱え、人と自然の空間的共存をテーマに、研究者としての科学的理論のみならず、それを社会化した数多くの作品や計画に携わってきた環境造園学の第一人者です。

代表的な仕事には、「愛・地球博」における会場演出総合プロデューサーや、多摩田園都市、国営海洋博記念公園や宮古島など沖縄の自然共生型リゾートや、ハウステンボス、愛知学院大学名城公園キャンパス等の計画・デザインがあります。

2005年には黄綬褒章を授与され、また、「サンデーモーニング」などのコメンテーターとしてもテレビ出演しています。

氏名涌井 史郎わくい しろう(造園家・ランドスケープアーキテクト)
生年月日1945年11月22日(鎌倉市生まれ)
主な役職
  • 東京都市大学 環境学部 教授
  • 岐阜県立森林文化アカデミー 学長
  • 愛知学院大学 教授
  • 東京農業大学 客員教授
  • 等々
主な略歴
  • 1972年 東京農業大学農学部造園学科出身
  • 2005年 日本国際博覧会(愛・地球博)会場演出総合プロデューサー
  • 2007年 生物多様性条約第10回締約国会議誘致構想策定委員会 委員
  • 2010年 COP10支援実行委員会 アドバイザー
  • 2011年 国連生物多様性の10年日本委員会 委員長代理
  • 2013年 岐阜県立森林文化アカデミー 学長
  • 2015年7月 なごや環境大学 学長
著書
  • 「景観創造のデザインデベロップメント」(綜合ユニコム)
  • 「景観からみた日本の心」(NHK出版)
  • 「奇跡と希望の松〜なぜ一本の松だけが生き残ったのか」(創英社)
  • 「いなしの智恵〜日本社会は「自然と寄り添い」発展する」(ベスト新書)
受賞歴
  • 東京農業大学「造園大賞」
  • 日本造園学会「日本造園学会賞」
  • 日本造園修景協会「下山奨励賞」
  • 佐藤国際交流賞
  • 国土交通大臣表彰
  • 黄綬褒章
出演番組TBS(CBC)「サンデーモーニング」コメンテーター(日曜日8:00〜10:00)

このたび、なごや環境大学の第4代学長となりました涌井史郎です。

私と名古屋がより深く関わることとなった転機は、2005年の愛・地球博(愛知万博)です。愛知万博では、会場演出総合プロデューサーとして、巨大な緑化壁を花や緑で埋め尽くしたバイオ・ラングを始めとする会場内の総合演出を行うとともに、跡地利用(現在の愛・地球博記念公園)の計画策定などに携わらせていただきました。

その後、2010年に行われた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、COP10を名古屋に誘致するための誘致構想策定委員会の委員やCOP10支援実行委員会アドバイザーを務めさせていただくなど、名古屋には深い思い入れがあるとともに、多くの方々の市民参加の醍醐味を経験いたしました。

その愛知万博の開催年:2005年に開学した「なごや環境大学」は、「『持続可能な地球社会』を支える人づくり、人の輪づくり」を目的とし、その運営を市民、NPO、企業、大学、行政等との協働で、人々の志(人的、物的、経済的支援)により行う、他にはないユニークな取組です。ある意味、その取組そのものが壮大な社会実験です。

2015年、なごや環境大学は10年という記念の年にあたり、この間、開催した講座・イベント数は1400以上、延べ参加者は18万人となりました。

さらに、2014年の11月には、持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議が開催されました。開催地として名古屋が選ばれたのは、この地でモノづくりと自然共生を常に模索し、市民協働の底力で未来を創造してきた結果にほかなりません。

そして今後、名古屋は「リニア新幹線」という大きなインパクトを迎えます。これは名古屋にとって、正負どちらの要因にも働く可能性をもつものです。

私がこれから提案したいものは、街の「魅力」ではなく「磁力」です。人を惹きつけるのは「磁力」であり、「魅力」は移ろいやすく10年もすれば陳腐化してしまいます。

目指すイメージは「江戸時代」。江戸は人口密度が著しく高い超過密都市にもかかわらず、その清潔さから大規模な感染症の流行もなく、狭い長屋に住んではいたものの、近在する社寺や大名屋敷のみどり、そして市街の周縁部には田畑や里山が取り囲み、エネルギーや物質の自律的循環のシステムを、それらみどりを媒介させて実現していました。

人為に由来して激甚化する自然災害へのレジリエンス性や、地下資源のピークアウトから必然となる生態系サービスへの依存などを考えると、これまでの人工構造物や地下資源依拠型の文明、つまりグレイインフラから、自然共生と物質とエネルギーの再生循環を果たし合わせて災害へのレジリエンス性を高めるグリーンインフラへの展開を考えねばなりません。

まさに、多額の投資を要するグレーインフラばかりに頼るのではなく、我々のライフスタイルそのものを変えつつ「適応」の概念を強化しなければなりません。

その一方で、人と人、人と社会、人と自然が繋がっているという認識を深め、とりわけ人と社会の強い結びつき、つまりコミュニティを財産とする地域社会を構築していかねばなりません。そう。あの街なかのたくさんの「祭り」の催行は、結果的に地域社会のつながりを再確認させ、自助と公助に分断される傾向の強かった地域社会に相互扶助の再確認を促す契機となっています。そうした意味からも祭りはある種の防災訓練でもあったと言えましょう。しかしそうした地域社会のコミュニティも、共に同じ自然条件の中で暮らしているといった環境の共有感を抜きには生まれません。

まさに、みどりはつなぎ手であり、自然をインフラとし、自然と共生する地域像をつくり、それにあわせてライフスタイルを変えていかねばならぬ歴史的転換点が今近づいていると考えています。

私はこの「なごや環境大学」を通して、名古屋の「市民力」とでもいうべき市民協働ネットワークを財産に、「風土」とも呼ばれる同じ環境条件の中を生き暮らす喜びを共有した等身大の人々の実像が創り上げる、新たなそして普遍性もある名古屋の「磁力」を高めていければと考えています。

そうした意味で、皆様と共に学び共に語らいこの名古屋の地が世界の環境先進モデルとなれる日を目標に手を携えて臨みましょう。

併せて皆様のご支援とご教導そしてご協力をお願いいたします。

「なごや環境大学」実行委員会 学長 涌井史郎